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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)65号 判決

東京都北区堀船三丁目六番十二号

原告

荒川石材株式会社

右代表者代表取締役

問矢正一

右輔佐人

弓削多義郎

東京都北区王子三丁目二二番一五号

被告

王子税務署長

喜井晨男

右指定代理人

宮北登

丸森三郎

佐伯秀之

須田光信

右当事者間の法人税等取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、被告が原告に対し昭和四三年五月三一日付でした昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分(但し、東京国税局長の昭和四五年一月一九日付裁決により税額が二、四〇九、九〇〇円に減額された。)及び重加算税賦課決定処分のうち所得金額六、三八九、二〇五円を超える部分を取消す。

二  被告が原告に対し昭和四三年五月三一日付でした源泉徴収にかかる昭和三八ないし昭和四二年分の給与所得の所得税についての納付告知及び不納付加算税賦課決定処分の取消しを求める部分の訴えを却下する。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

(一)  被告が原告に対し昭和四三年五月三一日付でした次の各処分を取消す。

1. 昭和三七年八月一一日から昭和三八年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分(但し、東京国税局長の昭和四五年一月一九日付裁決により税額が八〇〇、四〇〇円は減額された。)及び重加算税賦課決定処分

2 昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分(但し、右裁決により税額が八、九一九、〇〇〇円に減額された。)及び重加算税賦課決定処分

3 昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分(但し、右裁決により税額が二、四〇九、九〇〇円に減額された。)及び重加算税賦課決定処分

4 昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度分法人税の再更正処分(但し、右裁決により税額が二、九二四、七〇〇円に減額された。)及び重加算税賦課決定処分

5 昭和四一年八月一日から昭和四二年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分(但し、右裁決により税額が六、〇二八、三〇〇円に減額された。)及び重加算税、過少申告加算税各賦課決定処分

6 源泉徴収にかかる昭和三八ないし昭和四二年分の給与所得の所得税についての納付告知及び不納付加算税賦課決定処分

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

(一)  原告の(一)の1ないし5の各請求につき

同請求をいずれも棄却する。

(二)  原告の(一)の6の訴えにつき

1 (主位的に)右訴えを却下する。

2 (予備的に)原告の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は荒川の川砂等の採取、販売を業とする法人であるが、昭和三七年八月一一日から昭和三八年七月三一日までの事業年度(以下、昭和三七事業年度という。)、昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度(以下、昭和三八事業年度という。)、昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度(以下、昭和三九事業年度という。)、昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度(以下、昭和四〇事業年度という。)及び昭和四一年八月一日から昭和四二年七月三一日までの事業年度(以下、昭和四一事業年度という。)の各法人税について、別表(一)の(1)ないし(5)の各「確定申告」欄記載のとおりの申告をしたところ、被告は原告に対し、昭和四三年五月三一日付で、同表の(1)ないし(3)及び(5)の各「更正・決定」欄記載のとおりの各更正処分及び同表の(4)の「再更正・決定」欄記載のとおりの再更正処分(以下、右各処分を一括して本件各更正処分という。)ならびに重加算税、過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、右処分を一括して本件各賦課決定処分という。)をした(以下、これらの処分をあわせて本件各更正等処分ともいう。)

原告は、被告に対し本件各更正等処分につき異議申立てをしたが、いずれも昭和四三年九月二五日付で棄却決定がなされ、さらに、東京国税局長に対し審査請求をしたところ、いずれも昭和四五年一月一九日付で同表の(1)ないし(5)の各「同裁決」欄記載のとおりの原処分一部取消し(但し、昭和四〇事業年度分の過少申告加算税賦課決定処分については全部取消し)の裁決がなされ、その頃右裁決書謄本の送付を受けた。

(二)  被告は原告に対し、昭和四三年五月三一日付で源泉徴収にかかる昭和三八ないし昭和四二年分の給与所得の所得税についての納付告知及び不納付加算税賦課決定処分(税額は本税につき七五六、〇四三円、不納付加算税につき七五、五〇〇円)をした(以下、本件納税告知処分という。)。そこで原告は、本件納税告知処分につき異議申立てをしたところ、昭和四三年九月二七日付で棄却決定がなされ、その頃右決定書謄本の送付を受けた。

(三)  しかし、本件各更正等処分には、所得金額の認定を誤った違法があり、また本件納税告知処分には、原告の徴収納付義務が存在しないのになされた違法があるから、右各処分の取消しを求める。

二、被告の本案前の主張

本件納税告知処分に対しては、原告から審査請求がなされていない。したがつて、右納税告知処分の取消しを求める部分の訴えは、不服申立ての前置を経ていない点において不適法であるから却下されるべきである。

三、請求原因に対する被告の答弁及び主張

(一)  請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)の主張は争う。

(二)  本件各更正処分の適法性

1 昭和三七事業年度の更正処分について

本件昭和三七年事業年度における原告の所得金額及びその計算根拠は次のとおりである。

〈省略〉

(1) 仕入金額否認について

原告は、本件昭和三七事業年度内に別表(二)の番号1、2、11及び13記載の各仕入先(帳簿書類書の各営業者の氏名及び住所地は同表の各「仕入先名」欄記載のとおりである。以下同じ。)より同表の「仕入金額・三七事業年度」欄の該当箇所記載の金額の仕入をした旨帳簿書類に計上して確定申告しているが、右仕入先は、いずれも架空仕入であるから、被告は、その損金算入処理を否認し、これを申告所得金額に加算した。架空仕入と認定した理由の詳細は後記6に述べるとおりである。

(2) 仕入金額計上もれについて

原告の仕入先のうち、株式会社高尾建材(以下、高尾建材という。)からの仕入が九、八四〇円計上もれのため、被告は、右金額を原告の所得金額より減算した。

2 昭和三八事業年度の更正処分について

本件昭和三八事業年度における原告の所得金額及びその計算根拠は次のとおりである(△印は欠損金額を示す。以下同じ。)。

〈省略〉

(1) 仕入金額否認について

原告は、本件昭和三八事業年度内に別表(二)の番号1ないし11及び13記載の各仕入先(番号3ないし13の各仕入先の帳簿書類上の各営業者の氏名及び住所は同表の各「仕入先名」欄記載のとおりである。以下同じ。)より同表の「仕入金額・三八事業年度」欄の該当箇所記載の金額の仕入をした旨帳簿書類に計上して確定申告しているが、右仕入先は、いずれも架空であり、右仕入は架空仕入であるから、被告は、その損金処理を否認し、これを申告所得金額に加算した。架空仕入と認定した理由の詳細は後記6に述べるとおりである。

(2) 仕入金額計上もれについて

原告の仕入先のうち、高尾建材からの仕入が四、五一〇円計上もれのため、右金額を原告の所得金額より減算した。

(3) 事業税認定損について

昭和三七事業年度分の更正に伴う未払事業税六九、五一〇円は本件昭和三八事業年度の損金となるので、被告は、右金額を減算した。

3、昭和三九事業年度の更正処分について

本件昭和三九事業年度における原告の所得金額及びその計算根拠は次のとおりである。

〈省略〉

(1) 仕入金額否認について

原告は、本件昭和三九年事業年度内に別表(二)の番号1、2、4ないし7、10及び13記載の各仕入先より同表の「仕入金額・三九事業年度」欄の該当箇所記載の金額の仕入をした旨帳簿書類に計上して確定申告しているが、右仕入先はいずれも架空であり、右仕入は架空仕入である。また同表の番号14記載の仕入先(高尾建材)については、本件昭和三九事業年度内に八二、一四〇円の仕入をした旨帳簿書類に計上しているが、実際の仕入額は二二、七四〇円であるから、右二二、七四〇円を超える五九、四〇〇円は架空仕入である。よつて被告は、右架空仕入額の損金処理を否認し、これを申告所得金額に加算した。架空仕入と認定した理由の詳細は後記6に述べるとおりである。

(2) 雑収入計上もれについて

(ア) 受取利息計上もれ

別表(四)の番号1ないし6記載の六口の普通預金は原告の簿外預金であるところ(以下、本件簿外預金という。)、本件昭和三九事業年度内における右預金の受取利息合計一八、〇一〇円が計上もれであるから、被告は、右金額を原告の所得金額に加算した。簿外預金と認定した理由の詳細は後記7に述べるとおりである。

(イ) 仕入値引計上もれ

原告は本件昭和三九事業年度内に明和建材(その営業者は堤繁雄)から三、六〇〇円、株式会社野口商店(その代表者名は不明、以下野口商店という。)から一、四〇〇円の各仕入値引を受けたところ、右仕入値引合計五、〇〇〇円が計上もれであるから、被告は、右金額を原告の所得金額に加算した。

(3) 事業税認定損について

昭和三八事業年度分の更正に伴う未払事業税二、五五七、二〇〇円は、本件昭和三九事業年度の損金となるので、被告は、右金額を減算した。

4、昭和四〇事業年度の更正処分について

本件昭和四〇事業年度における原告の所得金額及びその計算根拠は次のとおりである。なお、原告は更正処分で認定定された所得金額の範囲内では不服申立てをしていないので、加減算は右金額(左表の更正処分金額)を基礎としたものである。

〈省略〉

(1) 仕入金額否認について

原告は、本件昭和四〇事業年度内に別表(二)の番号10及び12記載の各仕入先より同表の「仕入金額・四〇事業年度」欄の該当箇所記載の金額の仕入をした旨帳簿書類に計上して確定申告しているが、右仕入先はいずれも架空であり、右仕入は架空仕入であるから、被告は、その損金処理を否認し、これを更正処分金額に加算した。架空仕入と認定した理由の詳細は後記6に述べるとおりである。

(2) 雑収入計上もれについて

本件昭和四〇事業年度内における本件簿外預金の受取利息合計二二、〇九八円が計上もれであるから、被告は、右金額を原告の所得金額に加算した。

(3) 事業税認定損について

昭和三九年事業年度分の更正に伴う未払事業税六三二、二八〇円は、本件昭和四〇事業年度の損金となるので、被告は、右金額を減算した。

5、昭和四一事業年度の更正処分について

本件昭和四一事業年度における原告の所得金額及びその計算根拠は次のとおりである。

〈省略〉

(1) 仕入金額否認について

原告は、本件昭和四一事業年度内に別表(二)の番号6、10及び12記載の各仕入先より同表の「仕入金額・四一事業年度」欄の該当箇所記載の金額の仕入をした旨帳簿書類に計上して確定申告しているが、右仕入先がいずれも架空であり、右仕入が架空仕入であることは前同様であるから、被告は、その損金処理を否認し、これを申告所得金額に加算した。

(2) 売上金計上もれについて

本件昭和四一事業年度内における関工石材工業株式会社(以下、関工石材工業という。)に対する売上金四、一一一、八一〇円が計上もれであるから、被告は、右金額を原告の所得金額に加算した。

(3) 雑収入計上もれについて

本件昭和四一事業年度内における本件簿外預金の受取利息合計一五、八九四円が計上もれであるから、被告は、右金額を原告の所得金額に加算した。

(4) 事業税認定損について

昭和四〇事業年度分の更正に伴う未払事業税三八〇、一六〇円は、本件昭和四一事業年度の損金となるので、被告は、右金額を減算した。

6、架空仕入を認定した理由について

(1) 仕入先の実在性

別表(二)の番号1ないし13記載の一三件の仕入先は、いずれも実在しないというべきである。すなわち、文丸及び吉田商店については、前述のとおり原告の帳簿書類上その営業者の氏名、住所地の記載がなく、また被告担当者の調査の際にも、原告代表者は右の点を明らかにしえなかつた。中村建材店、伊藤商店、島村商店、西宮丸、田中商店及び栄丸については、前述のとおり原告の帳簿書類上住所地の記載はあるが、営業者の氏名は不明であり、右調査の際にも、原告代表者はこの点を明らかにしえなかつたのみならず、前記住所地宛の郵便照会は、いずれも名宛人不明等の理由で返戻されており、右住所地において当該仕入先名の商号もしくは屋号をもつて営業する者はついは確認できなかつた。さらに、たから丸、英丸、氷川丸、福丸及び松丸については、前述のとおり原告の帳簿書類上その営業者名、住所地が記載されていたが、右営業者に該当する者は、いずれも右住所地に住民登録がなく、居住の事実が確認できないうえ、前記住所地宛の郵便照会は、前同様いずれも返戻されており、右住所地において当該仕入先名の商号もしくは屋号をもつて営業する者は確認しえなかつた。

(2) 支払小切手についての疑問点

のみならず、前記一三件の仕入先のうち、西宮丸、田中商店及び吉田商店を除く一〇件の仕入先については、原告の帳簿書類上において、前記仕入代金支払のため右各仕入先宛に別表(三)の該当「金額」欄記載のとおりの金額の小切手(取扱銀行は第一銀行十条支店ないしは東京都民銀行王子支店)を振出した旨記載されており、右小切手には、同表の右各金額に対応する「裏書人氏名」及び「裏書人住所地」欄記載のとおりの裏書がなされているところ、右小切手を細かく検討すると、次に述べるようないくつかの疑問が残るのであり、これによれば、これら小切手の振出、裏書は、仕入代金の支払を仮装するために、原告において作為したものというべきである。

(ア) 同表記載の裏書人のうち、野口松二、野口嘉一、野口モミエ、東一男、広瀬正夫、高野昇、佐久間千代及び原告以外の者は、いずれも同表の「裏書人住所地」欄記載の該当住所地に住民登録がなく、居住の事実も確認できない。したがつて、これらの裏書は、架空名義による裏書である。

(イ) 右に除外した者は、実在はするが、次に述べるとおり、いずれも原告から代金の支払を受けたり小切手の振出しを受けたりするなんらの理由も有しない。すなわち、野口松二及び野口嘉一は、原告代表者の義弟かつ原告の従業員(船頭)であり、東一男は、原告の従業員(トラックの運転手)であつて、原告から賃金を得ている者である。原告は右三名に支払った賃金を給料勘定に計上して損金に算入しており、原告が賃金とは別に金銭を支払ういわれは全くない。なお、東一男の住所地は、原告代表者の父(問矢新市)の住所地と同一である。野口モミエは、原告代表者の義母であり、問矢義一は、右代表者の実弟であつて、原告とはなんら取引関係を有しない。広瀬正夫は、別表(三)の番号23の小切手の振出日である昭和三九年一月一〇当時、満一歳にも満たない幼児であつて自ら小切手の裏書人となることはありえないし、同人の父広瀬清も右の当時原告と取引をした事実はない。高野昇については、裏書の住所地(江東区深川三好二ノ三五)と同一町内(江東区三好一丁目二番一三号)に住民登録が存在したが、同人は、同表の番号32の小切手の振出日である同年四月一〇日当時、福島県相馬郡鹿児町に居住する満一七歳の高校生であつて、原告と取引をしたことはない。佐久間千代については、同人の夫である佐久間佐一が昭和三八年七月頃原告と川砂の売買取引をした事実はあるが、右取引金額は川船七隻分の約五六、〇〇〇円にすぎず、また原告は右佐久間からの仕入を現金仕入として会計帳簿に記帳していたのである。同表の番号24の小切手は原告自身裏書しているのであるが、仕人代金の支払のために取引先宛に振出された小切手が振出人自身の裏書で現金化されるということは、通常の商取引では行なわれないことである。もつとも、取引の相手方において、銀行取引がなく、かつ小切手を現金化する方法に不慣れである等の場合に、右のような方法を採ることがあるが、右小切手の振出先の中村建材店のように、年間二百数十万円もの取引を行なつているという商人については考えられぬところである。

(ウ) さらに、裏書の記載自体から一見して不自然なものがある。すなわち、同一裏書名義人でありながら住所地の異なるものとしては、亀田茂夫裏書名義にかかる同表の番号1の小切手と番号2ないし4の小切手、岡本貞子裏書名義にかかる同表の番号8ないし11の小切手と番号12の小切手、広瀬一夫裏書名義にかかる同表の番号15の小切手と番号16の小切手があり、また同一の裏書人住所地でありながら裏書名義人を異にするものとしては、「船橋市宮本町二ノ一五二」を住所地とするものとして亀田茂夫裏書名義にかかる同表の番号2ないし4の小切手、伊藤信裏書名義にかかる番号5の小切手、岡本貞子裏書名義にかかる番号12の小切手があり、「港区金杉一ノ一五」を住所地とするものとして岡本サヨ子裏書名義にかかる同表の番号17の小切手、浅沼清裏書名義にかかる番号18の小切手、問矢義一裏書名義にかかる番号30、33の小切手があり、「埼玉県北足立郡内間木(村)」を住所地とするものとして岡本貞子裏書名義にかかる同表の番号8ないし11の小切手と内山正夫裏書名義にかかる番号13の小切手がある。このうちで特に前記番号2の小切手と番号12の小切手とは、裏書署名の筆跡が酷似している。

(エ) そして、同表の番号6、7、17、21、25、26、30、及び33の八通の小切手は、別表(四)記載のとおり、六口の普通預金口座に振込入金されているところ、右預金が原告の簿外預金(本件簿外預金)を成すことは後記7のとおりである。

(3) 帳簿書類の不自然さ

原告の買掛帳の上では、別表(五)記載のとおりの期末買掛金残高が計上されており、しかも同表の各「残高」欄の記載によって明らかなように、右残高は、二ないし四事業年度にわたって異動がない。しかし、一般に、川砂等についての同業者間の取引は、現金取引を主体とし、稀に行なわれる掛取引でも短期間内に代金決済されるのがこの業界の慣行であつて川砂採取業者が一隻の川舟を頼りに家内企業的に営業している零細な業者であることに鑑みれば、右のような多額の売掛金債権を数年間も取立てずに放置しておくなどということは到底考えられないことである。さらに右掛仕入関係の納品書、請求書、領収書等の原始記録は、原告のもとで保存されていないのである。

(4) 架空計上の動機

本件係争事業年度のうち、昭和三八、三九両事業年度に著しく多額の仕入金額が計上されているのは、昭和四〇年一〇月の東京オリンピツクの開摧を契機として生じた建設ブームを反映して、原告の利益金額が多額に登り、その圧縮を図る必要が生じたために、架空仕入の計上という方法をもって利益操作をしたことによる。

7、原告の簿外預金と認定した理由について

(1) 預金名義人に帰属しないことについて

別表(四)の六口の普通預金の預金名義人のうち、岡本サヨ子が架空名義人であること、それ以外の者が原告代表者の親族であつて原告と取引がないことは既述のとおりである。野口松二、野口嘉一及び野口モミエについては、本件預金口座のある銀行がこれらの者の住所地及び勤務地より相当遠隔の地にあること、一度に二五〇、〇〇〇円ないし四三九、〇七五円の預金額は、その職業(松二及び嘉一は賃金生活者、モミエは無職)からみて常識的ではないこと、松二には預金の出入状況からみて同人自身のものと考えられる普通預金口座があること等からして、前記預金をこれらの者の預金とみるのは不自然である。そして、問矢義一は、被告の係官に対し、同表の番号6の預金が同人のものではない旨申述している。

(2) 原告に帰属するとみるべきことについて

前記六口の預金口座に特徴的なことは、いずれもその開設日に少額の現金(一、〇〇〇円ないし一〇、〇〇〇円)とともに原告振出しの小切手が預け入れられ、その後は長期間にわたつて預金取引が行なわれない、いわゆる睡眠口座となつていることであり、これによれば、右預金が原告振出しの小切手を取立てるという共通の目的をもつていることが明らかである。さらに、同表の番号2及び番号5の各口座が昭和三九年七月三一日に、同表の番号4及び番号6の各口座が同年八月三日に、そして同表の番号1及び番号3の各口座が昭和四〇年一月一三日に開設されているところ、このように同一日にことさら預入銀行を違えて預金口座を設定するという工作をする必要性に迫られるものは、裏の預金者が何人であるかの発覚をおそれる原告以外には考えられない。現に、原告代表者の三男問矢勝利は、被告係官に対し、同人が原告振出しの小切手を携行して、自動車で銀行をまわって設定した旨申述している。

(三)  本件各賦課決定処分の適法性

原告は、本件各事業年度において前述のとおり架空仕入をなして課税標準等の計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づいて申告をしていたので、被告は、本件昭和三七ないし昭和四〇事業年度につき、国税通則法六八条一項の規定により、各重加算税の賦課決定処分を、また本件昭和四一事業年度につき、右規定及び同法六五条一項の規定により重加算税、過少申告加算税各賦課決定処分をした。

(四)  本件納税告知処分の適法性

本件納税告知処分の対象とされた源泉給与所得は、原告の代表取締役問矢正一に対する認定賞与にかかるものであるところ、本件各更正処分に対する審査裁決の結果、右認定賞与額に異動をきたしたため、被告は、東京国税局協議団本部長の連絡に基づき、昭和四五年一月三一日付で本件納税告知処分の減額訂正(本税につき一九九、五〇〇円、不納付加算税につき一九、六〇〇円)をし、その頃原告に通知した。

四、被告の主張に対する原告の認否及び反論

(一)  被告の本案前の主張について

右主張事実中、原告が本件納税告知処分に対して審査請求をしなかつたことは認める。

(二)  請求原因に対する被告の主張について

1 被告の主張(二)の1ないし5の主張事実中、5の(2)の事実は認める。仕入金額否認の点(1ないし5の各(1))については、原告が本件各事業年度内に被告主張の各仕入先(但し、昭和三九事業年度の高尾建材を除く。)より被告主張の金額の仕入をした旨帳簿書類に計上して確定申告していること、右帳簿書類上は右各仕入先の営業者の氏名及び住所地が別表(二)の各「仕入先名」欄記載のとおりとされていることは認めるが、右仕入先がいずれも架空であり、右仕入が架空仕入であるとの点は否認する。原告は、本件各事業年度内に実際に右仕入先より右金額の仕入をした。高尾建材については、原告は右事業年度内に五九、四〇〇円の仕入をした。本件各更正等処分に対する裁決の結果、原処分において架空仕入と認定された仕入先のうち、明和建材外三件よりの仕入が架空仕入ではないことが認められており、本件各仕入先よりの仕入についても、再度入念な調査をすれば右の点が判明するはずである。

2 同(二)の6の(1)の主張事実中、被告主張の一三件の仕入先がいずれも実在しないとの点は否任し、各仕入先の氏名、住所地の記載の点を除くその余の点は知らない。右仕入先名(たから丸、英丸、氷川丸、福丸等の名称は、各営業者が所有もしくは使用している川砂採取船の船名である。)及び住所地は、当該仕入先からの納品書、請求書等に基づいて記載したものであるところ、川砂採取業界には、一定の店舗又は事務所をもたず、連絡先の不明確ないわゆる一匹狼的な潜りの業者が多数存在しており、また零細なこの種業者が掛取引を開始するに先立つて住民登録等によりいちいち仕入先の実在性を確認するがごときことは、通常行なわれ難く、これら仕入先からの請求書、納品書等に記載されている氏名、住所地を信用するよりほか仕方がないのが実情である。したがつて、郵便照会の結果、当該郵便物が名宛人不明等の理由で返戻されたとの一事をもつて、右仕入先が架空であると断ずることは、右取引実情を無視するものである。

3 同(二)の6の(2)の主張事実中、原告の帳簿書類上には、仕入代金仕払のため被告主張の一〇件の仕入先宛に被告主張金額の小切手を振出した旨記載されていること、別表(三)の番号24記載の小切手について原告が裏書したことは認めるが、被告主張の各小切手(担し、右番号24記載の小切手を除く。)に被告主張の裏書記載がなされていることならびに広瀬正夫及び高野昇に関する被告主張の身分関係等は不知、野口松二、野口嘉一、野口モミエ及び問矢義一の身分関係等の点を除くその余の事実は争う、右番号24記載の小切手について原告が裏書したのは、集金にきた中村建材店の担当者が印鑑を忘れてきたため、特に同人の希望により、便宜のために原告において記名押印し、これを同人に交付したことによるものであり、その余の前記各小切手については、原告が振出した後、何びとが裏書したものであるかは、原告には一切不明である。

4、同(二)の6の(3)の主張事実中、原告の買掛帳の上では被告主張の期末買掛金残高が計上されており、右残高の異動が被告主張のとおりであることは認めるが、その余の点は争う。川砂等の取引においては、現金取引は小口少額の取引に限り、主体はむしろ掛取引、それも支払期日が長期に及ぶのが実情である。なお、買掛金残高に異動がないのは、仕入先で集金にこないためそのままになっていることによる。

5、同(二)の6の(4)の主張事実は争う。

6、同(二)の7の主張事実中、原告代表者の三男勝利の被告係官に対する申述の点は否認し、その余の点は争う。

7、被告の主張(三)、(四)の各主張事実は争う。

第三証拠関係

一、被告

乙第一ないし第四号証の各一、二、第五号証の一ないし三、第六ないし第一一号証の各一、二、第一二ないし第一七号証、第一八号証の一、二、第一九ないし第二六号証、第二七号証の一、二、第二八、第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一号証、第三二号証の一、二、第三三、第三四号証、第三五号証の一、二、第三六ないし第三九号証、第四〇、第四一号証の各一、二、第四二ないし第四五号証、第四五号証、第四六号証の一、二、第四七ないし第五〇号証、第五一号証の一、二、第五二ないし第五五号証、第五六号証の一、二、第五七号証、第五八ないし第六〇号証の各一、二、第六一号証の一ないし三、第六二号証の一ないし四、第六三、第六四号証、第六五号証の一ないし三、第六六ないし第八八号証、第八九号証の一、二、第九〇号証の一ないし三、第九一ないし第九五号証を提出し、証人大熊和夫(第一、二回)、同緒方奎太、同村山文彦の各証言を援用した。

二  原告

乙第五号証の一ないし三、第五七号証、第五八ないし第六〇号証の各一、二、第六一号証の一ないし三、第六二号証の一ないし四、第六三号証、第九〇号証の二、三、第九四、第九五号証の成立を認め、第一ないし第四号証、第六ないし第一一号証、第一八、第二七、第三〇、第三二、第三五、第四〇、第四一、第四六、第五一、第五六号証の各一中官公署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知、第一二ないし第一七号証、第一九ないし第二六号証、第二八、第二九、第三一、第三三、第三四号証、第三六ないし第三九号証、第四二ないし第四五号証、第四七ないし第五〇号証、第五二ないし第五五号証中、裏書部分の成立は不知、その余の部分の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知

理由

第一、本件各更正等処分の取消請求について

一、請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二、本件各更正処分の適否

(一)  仕入金額の否認について

本件各更正処分における最大の争点は、仕入金額否認の適否であり、かつ右争点は、本件各事業年度に共通しているので、便宜上、高尾建材以外の仕入先について、右の点を一括して判断する。

原告が本件各事業年度内に別表(二)の番号1ないし13の「仕入先名」欄記載の各仕入先より同表の「仕入金額」欄記載の金額の仕入をした旨帳簿書類に計上して確定申告していることは、当時者間に争いがないところ、被告は、右仕入先がいずれも架空であり、右仕入が架空仕入であると主張し、原告は、実際に右仕入先より右金額の仕入をしたものであると主張するので証拠に照らして検討するに、結論において被告の右主張を肯認すべきものである。以下、各仕入先ごとに右判断に至る心証の経過を示す。

1、たから丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、たから丸(原告の主張によれば、川砂採取の船名)の営業者は亀田茂夫であり、同人の住所地として「千葉県船橋市宮本町二ノ一五二」と記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第六一号証の一、三によれば、原告の昭和四〇事業年度の法人税確定申告書添付の買掛金(未払金)内訳書(以下、本件買掛金内訳書という。)にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められ、さらに原告の帳簿書類上、仕入代金支払のために原告が右たから丸(亀田茂夫)宛に振出したとされていることにつき争いのない別表(三)の番号1ないし7記載の金額の七通の小切手(以下、別表(三)の番号により小切手を特定する。)のうち、番号2ないし4記載の三通の小切手(乙第一三、第一四、第一六号証)の裏書人亀田茂夫の住所地として右と同一の記載が、また番号1の小切手(乙第一二号証)の裏書人亀田茂夫の住所地としては「船橋市宮本町二ノ一五三」との記載がなされていることは、右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第六九号証によれば、千葉県船橋市長は、東京国税局長の照会に対し、亀田茂夫に該当する者の住民票は、昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において右両住所地のいずれにも見当らない旨の回答をしていることが認められる。他方「船橋市宮本町二ノ一五二」という住所地が前記番号5の小切手(乙第一五号証)の裏書人伊藤信、ならびに原告の帳簿書類上英丸宛に振出したとされていることにつき争いのない別表(三)の番号12記載の小切手(乙第二二号証)の裏書人岡本貞子の各住所地と同一であり、ことに前記番号2の小切手(乙第一三号証)と右番号12の小切手の裏書については、筆跡までも酷似していることは、右乙号各証の記載上明らかである(右裏書名義を架空名義とみるべきこと後述のとおり。)。してみると、すでに右のような事実からしても、亀田茂夫なる者の実在性については一応の疑いが生ずる。

この点に関し、原告は、川砂採取業界には一定の店舗又は事務所ももたず連絡先の不明確ないわゆる一匹狼的な潜りの業者が多数存在しており、また零細なこの種業者が掛取引を開始するに先立つて住民登録等によりいちいち仕入先の実在性を確認するがごときことは通常行なわれ難く、これら仕入先からの請求書、納品書等に記載されている氏名、住所地を信用するよりほか仕方がないのが実情であると主張している。そして、証人大熊和夫(第一回)の証言によれば、原告代表者は、被告の係官に対し、荒川の川砂採取船の船頭は船上生活をしており、家族も身内もないこと、原告の仕入先の船には台風で沈没したものもあること、業者の中には禁止されている荒川の戸田橋までの川砂採取を深夜から早朝にかけて違法に行ない、取締当局の摘発を受けているものがあること等の申述をしていることが認められる。しかしながら、仮りに右申述が措信できるとしても、それは、荒川における川砂採取業者の実相の一斑を示しているにすぎないとも考えられ、このことから直ちに、亀田茂夫なる者が前記住所地以外に住所地ないしは営業所を有する実在の業者だということにはならない。また、たから丸(亀田茂夫)の例のように、三事業年度間で五〇〇万円を超える掛取引をしかも継続的にするという場合に、原告がその取引先の氏名、住所地を明確に把握しておく必要のあることは、代金決済等の点を考えるとむしろ当然のことであり、仕入先からの請求書、納品書等(しかもこれら帳簿書類が不備、不完全であることは後記(3)のとおりである。)の記載のみを信頼して取引することは不自然である。原告の右主張は採用の限りではない。

(2) 次に、仕入代金支払のためたから丸(亀田茂夫)宛に振出したとされている前記七通の小切手について検討するに、右各小切手がすでに決済されていることは、番号1ないし6の小切手につき、裏書部分を除くその余の部分の作成につき争いのない乙第一二ないし第一七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第六六号証により、また番号7の小切手につき、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第六七号証によってこれを認めることができるところ、右各小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号1ないし7の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは、番号1ないし5の小切手については前述したところであり、番号6、7の小切手については前掲乙第一七、第六六、第六七号証の裏書部分の記載上明らかである。この裏書名義人の中には、たから丸の営業者とされる亀田茂夫以外の名義人(伊藤信、野口松二、野口嘉一)も含まれているので、進んで、何故にこのように裏書名義人が異なつているのか、これら名義人が実在するか、実在するとすれば、これらの者とたから丸ないしは亀田茂夫なる者との間にいかなる関連性(これらの者がたから丸ないしは亀田茂夫名義で川砂採取業を営んでいて原告と取引があるとか、右亀田から代金の受領委任ないしは小切手の取立委任を受けたとかの事情)があるか、について考察しなければならない。

伊藤信については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一八号証の一、二第七〇号証(但し、乙第一八号証の一中官公署作成部分の成立は、争いがない。)によれば、被告が右伊藤信に対し、前記住所地宛の郵便で原告との取引の有無について照会したところ、右郵便は宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、千葉県船橋市長は、東京国税局長の照会に対し、伊藤信に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において右住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められる。ところで、一般に、住民票や郵便照会の性格からして、右のような事実があるからといって、そのことから直ちに照会の対象者が架空人であると断定できないことは当然であり(本件において照会の対象とされている者の中には、後述のごとく、その氏名、住所地が不完全なものが少なくない。)なお別途調査方法を講ずべきであつたとも考えられようが、(この点について、証人大熊和夫(第一回は、郵便文書による照会によつて返戻されたものについては、電話帳で調べたり、該当番地に行つて町会長等に尋ねたりしたが実在の形跡はなかつた旨証言しているが、右証言は概括的にすぎてにわかには措信できない。)、本件においては後述のとおり調査の前提となる資料が乏しいのであるから、やむをえない面があり、また、右伊藤と亀田茂夫との関連性も、証拠上一切不明であるから、伊藤信の裏書名義は、架空名義であると一応推定される。

野口松二及び野口嘉一については、右両名が原告代表者の義弟であり、かつ原告の従業員(川砂採取船の船頭であることは、原告において明らかに争わないので自白したものとみなす。そして、前掲乙第一七、第六六、第六七号証、証人大熊和夫(第二回)の証言によれば、前記番号6の野口松二裏書名義の小切手は、別表(四)の番号1記載の同人名義の普通預金口座に、また、前記番号7の野口嘉一裏書名義の小切手は、別表(四)の番号3記載の同人名義の普通預金口座にそれぞれ振込入金されていることが認められる。しかし、右各預金口座が右両名に帰属するものとは認め難いこと後記(四)の2(1)(ア)(A)(B)のとおりであり、また右両名と亀田茂夫との関連性は証拠上不明である。

以上の事実に基づいて考えれば、前述七通の小切手が原告のたから丸(亀田茂夫)に対する仕入代金の支払のために振出されたものとは到底いい難く、むしろ、成立に争いのない乙第五七号証、証人大熊和夫(第二回)の証言によつて認められる次の事実、すなわち、本件各事業年度の当時、仕入先宛に対する小切手の振出事務は、原告の従業員宮本京子が担当していたところ、その態様には、右宮本が原告代表者の妻から呈示された請求書に基づき小切手を切り、これを右妻に交付する場合と、請求書を携行して集金にくる仕入先の担当者に直接交付する場合との二通りの方法があり、たから丸関係をはじめ殆んどの場合が前者の方法によつていたこと、原告において現金、銀行預金を管理し、現金出納帳、銀行当座帳、買掛帳等の記帳をする仕事は、昭和四二年四月頃までは専ら右原告代表者の妻が行なつていたこと(右認定を左右するに足りる証拠はない。)に鑑みれば、前記小切手は原告代表者の妻の操作によつてたから丸(亀田茂夫)に対する支払小切手であるかのように作為されたものと考えられる。

(3) さらに、原告の買掛帳の上では、係争事業年度末におけるたから丸関係の買掛金残高が別表(五)の番号1記載のとおりとされていることは当事者間に争いがないところ、証人大熊和夫(第一、二回)、同緒方奎太の各証言によれば、原告代表者の妻が右買掛帳の記帳をする際に基礎にしたという仕入先からの請求書及び納品書については、原告は被告の担当係官及び本件審査請求の担当者から再三その提出を求められたにもかかわらず、審査請求の段階で仕入先の宝久丸、明和建材、高尾建材及び野口商店関係の分を提出したのみで、たから丸(亀田茂夫)を含むその他の分については、保存されていないという理由で拒絶したこと、荒川の川砂採取業者は概ね零細な業者であるため、この業界における取引は現金取引が主体であり、たから丸関係のごとく、三、〇〇〇、〇〇〇円を超える多額の買掛金残高が二事業年度末(昭和四〇、四一事業年度末)にわたつて異動がないことは不自然であること、原告代表者は、本件審査請求の担当者からこの点の理由を聞かれた際、原告には右仕入先に支払う金がなかつたからであると答えるのみで、それ以上具体的な理由を明らかにしえなかつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。のみならず、別表(二)及び(五)を一覧して明らかなとおり、昭和三八、三九両事業年度にのみ集中して多額の仕入額、買掛金残額が買掛帳に計上されている点も奇異感を抱かせるし、さらに買掛帳の数字を詳らかにみれば買掛帳における昭和三八年度内のたから丸関係の支払額四五一、六六〇円は、同事業年度内における右たから丸宛の支払小切手(前掲乙第一三ないし第一五号証の各振出日からして前記番号2、3及び5の三通の小切手がこれに該当するものと認められる。)の金額合計四三五、四二五円を上まわつており、右金額不一致の点を明らかにする証拠はない。以上の各事実と前記(2)の認定説示よりすれば、買掛帳の記載内容自体にも疑義があるというべく、何らかの理由(例えば、被告の主張するような東京オリンピツク前の建設ブームによつて生じた多額の利益金の圧縮を図るため)に基づいて帳簿繰作が加えられたのではないかと疑われるのである。

(4) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内にたから丸(亀田茂夫)から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠は何もなく、かえつて右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが確認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

2 英丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、英丸(前同様、川砂採取船の船名)の営業者は岡本貞子であり、同人の住所地として「埼玉県北足立郡内間木村」と記載されていることは当事者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められるが、他方原告の帳簿書類上、仕入代金支払のために原告が右英丸(岡本貞子)宛に振出したとされていることにつき争いのない別表(三)の番号8ないし13記載の金額の六通の小切手のうち、番号8ないし11記載の四通の小切手(乙第二一、第二三、第二四、第二六号証)の裏書人岡本貞子の住所地として右と同一の記載が、また番号12の小切手(乙第二二号証)の裏書人岡本貞子の住所地としては「船橋市宮本町二ノ一五二」との記載がなされていることは、右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第七、第二七号証のの各一、二、第七二、第七三号証(但し、乙第七、第二七号証の各一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右英丸に対し前記埼玉県北足立郡の住所地宛の郵便でまた右岡本貞子に対し前記船橋市の住所地宛の郵便でそれぞれ原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便はいずれも宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、千葉県船橋市市長は東京国税局長の照会に対し、岡本貞子に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において前記船橋市の住所地に見当らない旨の回答をしていること、埼玉県朝霞市町は東京国税局長の照会に対し、岡本貞子に該当する者の住民票は前同様の期間内において前記埼玉県北足立郡の住所地(右照会の当時は朝霞市に編入)に見当らない旨の回答をしていることが認められ、前記船橋市の住所地がたから丸関係の裏書人亀田茂夫及び伊藤信の各住所地と符合することは前述したとおりである。

してみると、すでに右のような事実からしても、岡本貞子なる者の実在性については一応の疑いが生ずる。

(2) 次に、仕入代金支払のため英丸(岡本貞子)宛に振出したとされている前記六通の小切手について検討すると、右各小切手がすでに決済されていることは、裏書部分を除くその余の部分の作成につき争いのない乙第二一ないし第二六号証によつて認められるところ、右小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号8ないし13の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。この裏書名義人のうち、さきにみた岡本貞子以外の名義人(内山正夫)についてみるに、その住所地(埼玉県北足立郡内間木)は岡本貞子の前記住所地の一と符合するが、これについては、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第七四号証によれば、埼玉県朝霞市長は東京国税局長の照会に対し、内山正夫に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において右住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められ、また右内山と英丸(岡本貞子)との関連性も不明であるから、内山正夫名義の裏書は架空名義が使用されたものと一応推定される。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内に英丸(岡本貞子)から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における英丸関係の買掛金残高が別表(五)の番号2記載のとおりとされている当事者間に争いのない事実(なお、買掛帳における昭和三八事業年度内の英丸関係の支払額五一〇、三三五円は、同事業年度内における右英丸宛の支払小切手と認められる番号9、10、12及び13の小切手の金額合計五〇六、一三五円と一致しない。)に前記1の(1)ないし(3)の認定設示を合わて考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

3 文丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、文丸(前同様、川砂採取船名)の営業者の氏名、住所地が不明であることは当時者間に争いがなく、本件買掛金内訳書にもこの点の記載はない。すなわち、文丸については、営業者の氏名、住所地すら原告にも不明なのであつて、このこと自体右文丸の架空性を窺わせるものである。

(2) 次に、別表(三)の番号14記載の金額の小切手が原告の帳簿書類上仕入代金支払のために文丸宛に振出したとされていることは当事者間に争いがなく、裏書部分を除くその余の部分の作成につき争いのない乙第三一号証によれば、右小切手はすでに決済されていることが認められるところ、右小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号14の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは右乙第三一号証の裏書部分の記載上明らかである。そこでこの裏書名義人橋本昇についてみるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三二号証の一、二、第七五号証(但し、乙第三二号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右橋本昇に対しその住所地(千葉県柏市旭町二六〇)宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、千葉県柏市長は東京国税局長の照会に対し、橋本昇に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において見当らない旨の回答をしていることが認められ、また右橋本と文丸との関連性も不明であるから、橋本昇名義の裏書は架空名義が使用されたものと一応推定される

(3) 以上説示したとおり、原告が本件昭和三八事業年度内に文丸から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における文丸関係の買掛金残高が別表(五)の番号3記載のとおりとされている当事者間に争いのない事実に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

4 氷川丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、氷川丸(前同様、川砂採取船の船名)の営業者は浅沼某であり、同人の住所地として「東京都港区芝浦一丁目」と記載されていることは当事者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められ、さらに原告の帳簿書類上、仕入代金支払のために原告が右氷川丸(浅沼某)宛に振出したとされていることにつき争いのない別表(三)の番号15ないし18記載の金額の四通の小切手のうち、番号18の小切手(乙第三九号証)の裏書人浅沼清(同人が氷川丸の営業者とされる浅沼某と同一人であるか否かは不明であるが一応同一人と仮定してみる。)の住所地として「港区金杉一丁目一五番地」との記載がなされていることは、右乙第三九号証の裏書部分の記載上明らかである。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一〇、第四一号証の各一、二、第八五号証(但し、乙第一〇、第四一号証の各一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右氷川丸及び浅沼清に対し前記各住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛先不完全ないしは宛所に尋ね当らないとの理由でいずれも返戻されたこと、東京都港区長は東京国税局長の照会に対し、浅沼清に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において前記住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められるので、浅沼某ないしは浅沼清なる者の実在性については一応の疑いが生ずる。

(2) 次に、仕入代金支払のため氷川丸(浅沼某)宛に振出したとされている前記四通の小切手についてみるに、右各小切手がすでに決定されていることは、裏書部分を除くその余の部分の成立に争いのない乙第三六ないし第三九号証によつて認められるところ、右小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号15ないし18の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは、番号18の小切手については前述したところであり、番号15ないし17の小切手については前掲乙第三六ないし第三八号証の裏書部分の記載上明らかである。そこでこれら裏書名義人のうちさきにみた浅沼清以外の名義人(広瀬一夫、岡本サヨ子)について検討するに、前掲第三八号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四〇号証の一、二、第七六、第七七号証(但し、乙第四〇号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六八号証によれば、被告が右広瀬一夫に対し別表(三)の番号15記載の住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛名不完全でかつ宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、東京都港区長は東京国税局長の照会に対し、広瀬一夫及び岡本サヨ子に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において前記住所地(広瀬一夫については同表の番号15及び16記載の二つの住所地)のいずれにも見当らない旨の回答をしていること、岡本サヨ子裏書名義の小切手は別表(四)の番号4の同人名義の普通預金口座に入金されていることが認められる。そして右各裏書名義人と浅沼某ないしは浅沼清との関連性は証拠上不明であり、岡本サヨ子名義の右預金口座を原告の簿外預金とみるべきこと後記(四)の2(1)(ア)(C)のとおりであるから、以上の裏書は架空名義が使用されたものと一応推定される。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内に氷川丸(浅沼某)から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における氷川丸関係の買掛金残高が別表(五)の番号4記載のとおりとされている当事者間に争いのない事実に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

5 福丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上福丸(前同様、川砂採取船の船名)営業者は坂口某であり、同人の住所地として「東京都港区芝浦一丁目」と記載されていることは当時者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められるところ、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一一号証の一、二(但し、乙第一一号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右福丸に対し右住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛名不完全との理由で返戻されたことが認められる。そして坂口某自身については右のような郵便照会等をした形跡はないけれども(右乙第一一号証の一の宛名には「福丸」とのみ記載されている。)氏名及び住所地が右のように完全には原告にも判明していない以上、同人についての照会によつて新たな回答が得られたかどうかは疑わしいところである。

(2) 次に、別表(三)の番号19ないし22記載の金額の小切手が原告の帳簿書類上、仕入代金の支払のために福丸(坂口某)宛に振出されたとされていることは当事者間に争いがなく、裏書部分を除くその余の部分の作成につき争いのない乙第四二ないし第四五号証によれば、右各小切手がすでに決済されていることが認められるところ、右各小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号19ないし22の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。そこでこれら裏書名義人(榎本広一、佐藤喜久夫、野口松二、山田昇夫)について検討するに、野口松二以外の三名については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四六号証の一、二、第七八、第七九、第八六号証によれば、被告が右榎本広一に対し前記住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、東京都港区長は東京国税局長の照会に対し、前記三名に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において前記各住所地に見当らず、かつ右各住所地は存しない旨の回答をしていることが認められ、また右三名の者と坂口某との関連性も不明であるから、これらの裏書は架空名義が使用されたものと一応推定される。

さらに、野口松二が原告代表の義弟であり、かつ原告の従業員(川砂採取船の船頭)であることは前述したとおりであり、前掲乙第四四号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第九三号証によれば、同人裏書名義の前記小切手は、別表(四)の番号2記載の同人名義の普通預金口座に入金されていることが認められるところ、右預金口座が同人に帰属するものとは認め難いこと後記(四)の2(1)(ア)(A)のとおりであり、また同人と坂口某との関連性も不明である。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内に福丸(坂口某)から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における福丸関係の買掛金残高か別表(五)の番号5記載のとおりとされている当時者間に争いのない事実(但し、右買掛帳記載の残高のうち、同表の括弧内の数字は、明白な違算と認められるので、当該下段の数字のとおり訂正する。以下同じ)に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

6 中村建材店よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、中村建材店の営業者は不明であり、同店の住所地として「東京都世田谷区用賀町二ノ五八六」と記載されていることは当時者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められ、さらに原告の帳簿書類上仕入代金の支払のために原告が中村建材店宛に振出したとされることにつき争いのない別表(四)の番号23ないし27記際の金額の五通の小切手のうち、番号27の小切手(乙第五〇号証)の裏書名義人中村信(同人が中村建材店の営業者であるか否かは不明であるが、一応その営業者であると仮定してみる。)の住所地として「柏市豊四季旭町」との記載がなされていることは右乙第五〇号証の裏書部分の記載上明らかである。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三号証の一、二、第八〇号証(但し、乙第三号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右中村建材店に対し右住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛先不完全との理由で返戻されたこと、千葉県柏市長は東京国税局長の照会に対し、中村信に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において前記住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められるので、中村建材店ないしは中村信なる者の実在性については一応の疑いが生ずる。

(2) 次に、仕入代金支払のため中村建材店宛に振出したとされている前記五通の小切手についてみるに、右各小切手がすでに決済されていることは、番号26の小切手につき前掲乙第六七号証により、また番号23ないし25、27の小切手につき裏書部分を除くその余の部分の成立に争いのない乙四七ないし第五〇号証により認められるところ、右小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号23ないし27の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは、番号27の小切手については前述したところであり、番号23ないし26の小切手については前掲乙第四七ないし第四九号証、第六七号証の記載上明らかである。そこでこれら裏書名義人のうちさきにみた中村信以外の名義人(広瀬正夫、原告、野口モミエ、野口嘉一)について検討するに、広瀬正夫については、前掲乙第四七号証、成立に争いのない乙第九四号証、証人村山文彦の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第九一号証、証人大熊和夫(第二回)の証言によれば、広瀬正夫裏書名義の前記小切手(乙第四七号証)の振出日である昭和三九年一月一〇日当時、前記裏書住所地である世田谷区用賀町二ノ五八六に広瀬正夫なる者が居住していたこと、しかし右広瀬正夫は、当時からトラツクの運転助手をしている広瀬清の長男であり、右の当時は満七箇月であつたこと、右清は、東京国税局の係官に対し、原告や中村建材店は知らないし、前記小切手の裏書をした事実はない旨申述していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実によれば、前記広瀬正夫裏書名義は、無断借用されたものとみるのが相当である。

原告の裏書名義については、原告は、集金にきた中村建材店の担当者が印鑑を忘れてきたため、特に同人の希望により、便宜のために原告において記名押印し、これを同人に交付したことによると主張する。しかし、主張自体として考えてみても、取引の相手方において銀行取引がなく、小切手を現金化する方法に不慣れである等の場合に、専らその相手方の便宜のために、振出人自身が裏書して相手方に交付するという方法も考えられるのであるが、原告の主張によつても中村建材店の対原告関係の取引額は年間二〇〇万円を超えるというのであるから、右のような方法が採られたとみるのはいささか不自然であり、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠がないのみか、むしろ原告が原告自身の便宜のために右裏書をなした疑いが強いと考えられる。

野口モミエについては、同人が原告代表者の義母であることは、原告において明らかに争わないので自白したものとみなす。そして、前掲乙第四九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六五号証の一ないし三、証人大熊和夫(第二回)の証言によれば、野口モミエは原告との取引がないこと、前記番号25の同人裏書名義の小切手は、別表(四)の番号5の同人名義の普通預金口座に入金されていることが認められるところ、右領金口座が同人に帰属するものとは認め難いこと後記(四)の2(1)(ア)(D)のとおりであり、同人と中村建材店ないしは中村信との関連性も不明であるから、右裏書名義は借用されたものと考えられる。

さらに、野口嘉一が原告代表者の義弟であり、かつ原告の従業員(川砂採取船の船頭)であることは前述したとおりであり、前掲乙第六九号証によれば、同人裏書名義の前記小切手は、別表(四)の番号3記載の同人名義の普通預金口座に入金されていることが認められるところ、右預金口座が同人に帰属するものとは認め難いこと後記(四)の2(1)(ア)(B)のとおりであり、また同人と中村建材店ないし中村信との関連性も不明である。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内に中村建材店から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて原告の買掛帳の上では係争事業年度末における中村建材店関係の買掛金残高が別表(五)の番号6記載のとおりとされている当時者間に争いのない事実に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

7 伊藤商店よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、伊藤商店の営業者は不明であり、同店の住所地として「東京都世田谷区上北沢三六」と記載されていることは当時者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められ、さらに原告の帳簿書類上仕入代金の支払のために原告が伊藤商店宛に振出したとされることにつき争いのない別表(四)の番号28ないし31記載の金額の四通の小切手のうち、番号31の小切手(乙第五五号証)の裏書名義人伊藤正男(同人には伊藤商店の肩書が付せられているので、同商店の営業者とも考えられる。)の住所地として「世田谷区上北沢一ノ三六」との記載がなされていることは右乙第五五号証の裏書部分の記載上明らかである。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四号証の一、二、第八三号証(但し、乙第四号証のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右伊藤商店に対し前者の住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛名不完全との理由で返戻されたこと、東京都世田谷区長は東京国税局長の照会に対し、伊藤正男に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において後者の住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められるので、伊藤商店ないしは伊藤正男なる者の実在性については一応の疑いが生ずる。

(2) 次に、仕入代金支払のため伊藤商店宛に振出したとされている前記四通の小切手についてみるに、右各小切手がすでに決済されていることは、裏書部分を除くその余の部分の成立に争いのない乙第五二ないし第五五号証により認められるところ、右小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号28ないし31の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは、右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。そこでこれら裏書名義人のうちさきにみた伊藤正男以外の名義人(飯島勝利、倉田信、問矢義一)について検討するに、飯島勝利及び倉田信については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第五六号証の一、二、第八一、第八三号証(但し、乙第五六号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右倉田信に対し前記住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、東京都世田谷区長は東京国税局長の照会に対し、飯島勝利及び倉田信に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間においていずれも前記住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められ、また右両名と伊藤商店ないし伊藤正男との関連性も不明であるから、これらの裏書は架空名義が使用されたものと一応推定される。

さらに、問矢義一については、同人が原告代表者の実弟であることは、原告において明らかに争わないので自白したものとみなす。

そして、前掲乙第五四号証、裏書部分を除くその余の部分の成立に争いのない乙第二九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六四号証、証人大熊和夫(第二回)の証言によれば、問矢義一は東京都港区金杉で港建材株式会社を経営しており、原告とは取引がないこと、前記番号30の同人裏書名義の小切手(乙第五四号証)は、別表(三)の番号33記載の同人裏書名義の小切手(乙第二九号証)と一括して別表(四)の番号6記載の同人名義の普通預金口座に入金されていることが認められるところ、右預金口座が同人に帰属するものとは認め難いこと後記(四)の2(1)(ア)(E)のとおりであり、また同人と伊藤商店ないし伊藤正男との関連性も不明であるから、右裏書名義は借用されたものと考えられる。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内に伊藤商店から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて原告の買掛帳の上では係争事業年度末における伊藤商店関係の買掛金残高が別表(五)の番号7記載のとおりとされている当時者間に争いのない事実(なお、買掛帳における昭和三八事業年度内の伊藤商店関係の支払額六二〇、〇〇〇円は、同事業年度内における右伊藤商店宛の支払小切手と認められる番号28ないし30の小切手の金額合計六一八、八二〇円と一致しない。)に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否定される。

8 島村商店よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、島村商店の営業者は不明であり、同店の住所地として「調布市石原町三二〇」と記載されていることは当時者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書には「北多摩郡調布市石原町」との住所地の記載がなされていることが認められるところ、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二号証の一、二(但し、乙第二号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右島村商店に対し「北多摩郡調布市石原町」宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛名不完全という理由で返戻されたことが認められる。ところで、旧北多摩郡調布町は昭和三〇年四月一日に市制が施かれて調布市となっているので、右住所中の「北多摩郡」とある部分は誤記と認められるが、右誤記は一見して明らかであるから、この誤記のみに基づいて宛名不完全とされたとは考えられない。そして「調布市石原町三二〇」宛の右のような郵便照会等をした形跡はないけれども、営業者の氏名が不明である以上、右照会によって新たな回答が得られたかどうかは疑わしいと思われる。

(2) 次に、別表(三)の番号32、33記載の金額の小切手が原告の帳簿書類上、仕入代金支払のため島村商店宛に振出されたとされていることは当事者間に争いがなく、裏書部分を除くその余の部分の作成につき争いのない乙第二八、第二九号証によれば、右各小切手がすでに決済されていることが認められるところ、右各小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号32、33の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。そこでこれら裏書名義人(高野昇、問矢義一)について検討するに、高野昇については、成立に争いのない乙第九〇号証の二、三、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三〇号証の一、二、第八七号証(但し、乙第三〇号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)、証入村山文彦の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第九〇号証の一によれば、被告が右高野昇に対し前記住所地(東京都江東区深川三好二ノ三五)宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛名不完全との理由で返戻されたこと、東京都江東区長は東京国税局長の照会に対し、高野昇に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において右住所地に見当らないが東京都江東区三好一丁目二番一三号には高野昇なる者の住民票(昭和四一年一二月一日に転入、昭和四六年七月二日に転出)はある旨の回答をしていること、しかし、住民票が存在する右高野昇は、前記番号32の小切手の振出日である昭和三九年四月一〇日当時、福島県原町市在住の高校生であり、同人は本件審査請求の担当者に対し、原告や前記小切手は知らない旨申述していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実よりすれば、前記高野昇裏書名義は、架空名義を使用したところ実在人の氏名と偶然に符合したか、あるいは無断借用されたものとみるのが相当である。

さらに、問矢義一については、同人が原告代表者の実弟で原告とは取引がないこと、前記番号33の小切手が番号30の小切手と一括して別表(四)の番号6の同人名義の普通預金口座振込入金されていること、右預金口座が同人に帰属するものとは認め難いことは前述のとおりであり、また同人と島村商店との関連性も不明であるから、右裏書名義は借用されたものと考えられる。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件昭和三八事業年度内に島村商店から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における島村商店関係の買掛金残高が別表(五)の番号8記載のとおりとされている当事者間に争いのない事実に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

9 西宮丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、西宮丸(前同様、川砂採取船の船名)の営業者は不明であり、西宮丸の住所地として「銚子市三崎」と記載されていることは当事者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められる。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第九号証の一、二(但し、乙第九号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右西宮丸に対し前記住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたことが認められるので、西宮丸ないしはその営業者の実在性については一応の疑いが生ずる。

(2) そして他に原告が本件昭和三八事業年度内に西宮丸から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における西宮丸関係の買掛金残高が別表(五)の番号9記載のとおりとされている当事者間に争いがない事実に前記1の(1)、(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

10 松丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、松丸(前同様、川砂採取船の船名)の営業者は宇田川某であり、同人の住所地として「銚子市渡飯町一ノ三七九」と記載されていることは当時者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められる。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第八号証の一、二(但し、乙第八号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右松丸に対し右住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は該当町名がなく、かつ宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたことが認められる。そして宇田川某自身については右のような郵便照会等をした形跡はないけれども(右乙第八号証の宛名は「松丸」とのみ記載されている。)、さきの照会に対する回答より考えて、同人についての照会によつて新たな回答が得られたかどうかは疑わしいところである。

(2) 次に、別表(三)の番号34、35記載の金額の小切手が原告の帳簿書類上、仕入代金支払のために松丸(宇田川某)宛に振出されたとされていることは当事者間に争いがなく、裏書部分を除くその他の部分の作成につき争いのない乙第三三、第三四号証によれば、右各小切手がすでに決済されていることが認めらるところ、右各小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号34、35の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。そこでこれら裏書名義人(上田好司、東一男)について検討するに、上田好司については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認られるから真正な公文書と推定すべき乙第三五号証の一、二、第八四号証(但し、乙第三五号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)によれば、被告が右上田好司に対し前記住所地(但し、港区金杉一ノ一四の新住居表示である港区芝一丁目四番一〇号による。)宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、東京都港区長は東京国税局長の照会に対し、上田好司に該当する旨の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において右住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められるので、右事実よりすれば、上田好司名義の裏書は架空名義が使用されたものと一応推定される。

さらに、東一男については、証人大熊和夫(第一、二回)の証言によれば、東一男は原告の従業員(ダンプカーの運転手)であることが認められるところ、原告がその仕入先に対して支払つたとされる代金を原告の従業員が受領するということは不自然かつ不合理であり、また東一男と松丸ないしは宇田川某との関連性も不明であるから、同人名義の裏書は借用されたものと考えられる。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内に松丸(宇田川某)から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における松丸関係の買掛金残高が別表(五)の番号10記載のとおりとされている当時者間に争いのない事実に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

11 田中商店よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、田中商店の営業者は不明であり、同商店の住所地として「松戸市上本郷二〇一七」と記載されていることは当時者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められる。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一号証の一、二(但し、乙第一号証の一のうち官公署作成部分の成立は争いがない。)、証人緒方奎太の証言によれば、被告が右田中商店に対し前記住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛所に尋ね当らないとの理由で返戻されたこと、原告は本件審査請求の際、とくに田中商店関係の仕入金額の認容を申立てたが、右審査請求の担当者が調査を尽しても右田中商店の営業者が判明しなかつたため、右申立は認容されるに至らなかつたことが認められるので、田中商店ないしはその営業者の実在性については一応の疑いが生ずる。

(2) そして他に原告が本件係争事業年度内に田中商店から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における田中商店関係の買掛金残高が別表(五)の番号11記載のとおりとされている当事者間に争いがない事実に前記1の(1)、(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

12 吉田商店よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、吉田商店の営業者の氏名、住所地が不明であることは当時者間に争いがなく、本件買掛金内訳書にもこの点の記載はない。すなわち、吉田商店については、営業者の氏名、住所地すら原告にも不明なのであつて、このこと自体右吉田商店の架空性を窺わせるものである。

(2) そして他に原告が本件係争事業年度内に吉田商店から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における吉田商店関係の買掛金残高が別表(五)の番号12記載のとおりとされている当事者間に争いがない事実に前記1の(1)、(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

13 栄丸よりの仕入について

(1) 原告の帳簿書類上、栄丸(前同様、川砂採取船の船名)の営業者が不明であり、栄丸の住所地として「埼玉県与野市飯田町三」と記載されていることは当時者間に争いがなく、前掲乙第六一号証の一、三によれば、本件買掛金内訳書にも右と同一の住所地の記載がなされていることが認められる。しかるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第六号証の一、二によれば、被告が右栄丸に対し前記住所地宛の郵便で原告との取引の有無につき照会したところ、右郵便は宛名不完全との理由で返戻されたことが認められる。

しかしながら、他方、証人村山文彦の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第八九号証の一、二、証人大熊和夫(第二回)の証言によれば、「東京都板橋区舟渡一丁目五番二号」に住所地を有し、かつ昭和三八年当時荒川の川砂採取業をしていた佐久間佐一なるなる者が、栄丸という名称の採取船を所有し、原告との間において川砂の取引があつたことが認められるので、右事実よりすれば、原告が主張する栄丸よりの仕入が右佐久間佐一よりの仕入ではないかとも考えられる。そこで進んで右取引内容について検討するに、前掲乙第八九号証の一、二、証人村山文彦、同大熊和夫(第二回)の各証言によれば、佐久間佐一は東京国税局の担当係官に対し、同人が昭和三八年七月二四日から同年八月三日までの間に栄丸で七隻分(一隻分の単価は約八、〇〇〇円)の川砂を原告に売渡したところ、右代金については同年八月一七日までに全て支払われ、それ以外に同人は原告に売掛債権を有しない旨申述していること、原告は右佐久間からの仕入を現金仕入分として帳簿書類に計上していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右の認定事実に基づいて考えれば、原告主張の栄丸よりの仕入が右佐久間よりの仕入を指すものであるとしても、右仕入は明らかに架空計上というほかはない。

(2) 次に、別表(三)の番号36、37記載の金額の小切手が原告の帳簿書類上、仕入代金支払のために栄丸宛に振出されたとされていることは当時者間に争いがなく、裏書部分を除くその余の部分の作成につき争いのない乙第一九、第二〇号証によれば、右各小切手がすでに決済されていることが認められるところ、右各小切手の取立をなした裏書名義人の氏名、住所地が別表(三)の番号36、37の「裏書人氏名」、「裏書人住所地」欄記載のとおりであることは右乙号各証の裏書部分の記載上明らかである。そこでこれら裏書名義人(佐久間千代、吉田一夫)について検討するに、佐久間千代については、前掲乙第八九号証の一、二、証人村山文彦の証言によれば、同人は前記佐久間佐一の妻であつて、自らは原告と取引がなかつたことが認められ、また同人と原告主張の栄丸の営業者との関連性も不明であるから、同人名義の裏書は借用されたものと考えられる。

さらに、吉田一夫については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第七一号証によれば、埼玉県与野市長は東京国税局長の照会に対し、吉田一夫に該当する者の住民票は昭和三七年八月一一日から昭和四二年七月三一日までの間において前記住所地に見当らない旨の回答をしていることが認められ、また同人と栄丸の営業者との関連性も不明であるから、同人名義の裏書は架空名義であると一応推定される。

(3) 以上説示したとおり、原告が本件係争事業年度内に栄丸から前述のような仕入をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告の買掛帳の上では係争事業年度末における栄丸関係の買掛金残高が別表(五)の番号13記載のとおりとされている当事者間に争いのない事実(なお、買掛帳における 昭和三八年 事業年度内の栄丸関係の支払額四二、〇〇〇円は、同事業年度内における右栄丸宛の支払小切手と認められる番号36の小切手金額四、五〇〇円と一致しない。)に前記1の(1)ないし(3)の認定説示を合わせ考えれば、右仕入は原告において仮装し、架空計上したものであることが推認されるから、右仕入金額の損金処理は否認されるべきである。

(二)  昭和三七事業年度の更正処分について

1 仕入金額否認について

原告の本件昭和三七事業年度の確定申告のうち、たから丸、英丸、田中商店及び栄丸よりの仕入金額合計六六四、八六五円の損金処理が否認されるべきことは、前記(一)の1.2.11及び13に述べたとおりである。したがつて、右金額は同事業年度の申告所得金額一、六九七、五九二円に加算すべきである。

2 仕入金額計上もれについて

被告は、原告の仕入先のうち本件昭和三七事業年度内における高尾建材からの仕入額九、八四〇円が計上もれであると主張し、原告もこの点を特に争わないので、右金額は前記申告所得金額より減算すべきである。

3 してみれば、原告の本件昭和三七事業年度の所得金額が二、三五二、六一七円となることは明らかであるから、これと同旨の同事業年度の更正処分(但し、東京国税局長の昭和四五年一月一九日付裁決により一部取消されたものは)適法である。

(三)  昭和三八事業年度の更正処分について

1 仕入金額否認について

原告の本件昭和三八事業年度の確定申告のうち、たから丸、英丸、文丸、氷川丸、福丸、中村建材店、伊藤商店、島村商店、西宮丸、松丸、田中商店及び栄丸よりの仕入金額合計二二、九二七、三〇一円の損金処理が否認されるべきことは、前記(一)の1ないし11及び13に述べたとおりである。したがつて、右金額は同事業年度の申告欠損所得金額四一八、一二一円に加算すべきである。

2 仕入金額計上もれについて

被告は、原告の仕入先のうち本件昭和三八事業年度内における高尾建材からの仕入額四、五一〇円が計上もれであると主張し、原告もこの点を特に争わないので、右金額は前記申告欠損所得金額より減算すべきである。

3 事業税認定損について

昭和三七事業年度の更正処分が適法であることは前述のとおりであるから、同処分に伴ない計算される同事業年度の未払事業税六九、五一〇円は、本件昭和三八事業年度の損金となる。よつて、右金額を前記申告欠損所得金額より減算すべきである。

4 してみれば、原告の本件昭和三八事業年度の所得金額が二二、四三五、一六〇円となることは明らかであるから、これと同旨の同事業年度の更正処分(但し、前記裁決により一部取消されたもの)は適法である。

(四)  昭和三九事業年度の更正処分について

1 仕入金額否認について

(1) 原告の本件昭和三九事業年度の確定申告のうち、たから丸、英丸、氷川丸、福丸、中村建材店、伊藤商店、松丸及び栄丸よりの仕入金額合計一〇、四〇七、三五五円の損金処理が否認されるべきことは、前記(一)の1、2、4ないし7、10及び13に述べたとおりである。

(2) 高尾建材よりの仕入について

原告が本件昭和三九事業年度内に高尾建材より八二、一四〇円の仕入をした旨帳簿書類に計上していることは、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。しかるところ、成立に争いのない乙第五号証の一、証人大熊和夫(第二回)の証言によれば、高尾建材は被告の照会に対し、高尾建材が本件三九事業年度内に原告に売渡した川砂の代金は二二、七四〇円であり、右代金はすでに原告から支払を受けている旨回答していることが認められる。したがつて。特段の反証のない本件では右八二、一四〇円のうち二二、七四〇円を超える五九、四〇〇円(なお、原告は右金額を昭和四〇、四一事業年度末において買掛金残高として計上している。)は過大計上というほかなく、その損金処理は否認されるべきである。

(3) したがつて、本件昭和三九事業年度内における仕入金額の否認額は一〇、四六六、七五五円となるので、右金額は同事業年度の申告欠損所得金額一、五三八、三六〇円は加算すべきである。

2 雑収入計上もれについて

(1) 受取利息計上もれについて

(ア) たから丸、氷川丸、福丸、中村建材店、伊藤商店及び島村商店宛に振出されたとされる小切手が仕入先へ入金されず別表(四)の番号1ないし6記載の六口の普通預金口座に振込入金されていることは前述したとおりである。ところで、被告は、右各預金は原告の簿外預金であると主張するので、以下順次検討する。

(A) 野口松二名義の二口の預金について

野口松二が原告代表者の義弟であり、かつ原告の従業員すなわち賃金生活者であることは前述したとおりであり、前掲乙第六六、第九二号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第九三号証によれば、同人名義の二口の預金口座の新規開設は、別表(四)の番号1の口座については、一、〇〇〇円の現金及び額面四三八、〇七五円の小切手(番号6の小切手)の預入をもつて昭和四〇年一月一三日に、また同表の番号2の口座については、一〇、〇〇〇円の現金及び額面二四〇、〇〇〇円の小切手(番号21の小切手)の預入をもつて昭和三九年七月三一日にそれぞれなされ、いずれもその後は預金の出し入れがなくいわゆる睡眠口座となつていること、これに対し、同人名義の普通預金口座は東京都民銀行王子支店にもあるところ(昭和四二年一月一一日新規開設)、この口座にはほぼ毎月五、〇〇〇円ないし三〇、〇〇〇円の預金の出し入れがなされていること、東京都民銀行王子支店(北区王子一丁目)は同人の住所地(同区豊島二丁目)及び勤務地すなわち原告の所在地(同区堀船三丁目)に近いのに対し、前記番号1の預金銀行である三井信託銀行本店(中央区日本橋室町二丁目)及び前記番号2の預金銀行である第一勧業銀行尾久支店(北区田端新町二丁目)が比較的遠隔の地にあることが認められる。右事実に基づいて考えれば、東京都民銀行王子支店の右預金口座は、その名義人である野口松二に帰属すると認められるのに対し、前記二口の預金口座は、専ら原告振出しの前記小切手を振込むために設定されたのではないかと考えられ、その名義人たる同人に帰属すると考えることは不自然であるといわなければならない。のみならず、前掲乙第六五号証の一、二、第六六、第六七号証、証人大熊和夫(第二回)、同村山文彦の各証言によれば、前記野口松二名義の二口の預金口座のうち、別表(四)の番号1の預金口座は同表の番号3の野口嘉一名義の預金口座と同じ日に、また同表の番号2の預金口座は同表の番号5の野口モミエ名義の預金口座と同じ日に新規設定されていること、原告代表者の三男である問矢勝利は被告の係官の質問に対し、右番号1及び番号3の預金口座は、同人が同じ日に前記番号6及び番号26の小切手を預入れて設定したものである旨述べ、さらに以前に原告代表者の父が経営していた合資会社問矢商店が小切手取引のため一口だけの銀行預金口座を継続的に利用していたところ、そのために多額の更正処分を受けた前例があるため、原告の場合には異なる名義人のいくつかの預金口座を開設した旨述べていることが認められるのであつて、右事実を合わせ考えれば、野口松二名義の前記二口の預金口座は、原告が預金操作による簿外資産の作出を図つたものであり、それは原告の簿外預金をなすものと認めるのが相当である。

(B) 野口嘉一名義の預金について

前掲乙第六七号証によつて認められる野口嘉一名義の預金口座の預金の推移状況によれば、右預金口座は前記野口松二名義の二口の預金口座と同様の目的を持つて設定されたものと考えられ、他方野口嘉一が右松二と同様の地位、身分関係にあることは前述のとおりであるから、前記(A)の認定説示を考え合わせると、右預金口座も原告の簿外預金をなすものと認めるのが相当である。

(C) 岡本サヨ子名義の預金について

前掲乙第六八号証によつて認められる岡本サヨ子名義の預金口座の推移状況によれば、右預金口座も前同様の目的をもつて設定されたものと考えられ、他方岡本サヨ子が架空名義とみられることは前述のとおりであり、さらに前掲乙第六四、第六八号証によれば、本件岡本サヨ子名義の預金口座は、後記問矢義一名義の預金口座とともに昭和三九年八月三日に新規設定されていることが認められるので、これらの事実と前記(A)の認定説示を総合すると、右預金口座も前同様原告の簿外預金をなすものと認めるのが相当である。

(D) 野口モミエ名義の預金について

前掲乙第六五号証の一、二によつて認められる野口モミエ名義の預金口座の預金の推移状況によれば、右預金口座も前同様の目的をもつて設定されたものと考えられ、他方、野口モミエが原告代表者の義母であつて原告と取引がないことは前述のとおりであり、これらの事実と前記(A)の認定説示を考え合わせると、右預金口座も前同様原告の簿外預金をなすものと認めるのが相当である。

(E) 問矢義一名義の預金について

本件問矢義一名義の預金については、証人大熊和夫(第二回)の証言によれば、問矢義一は被告の係官の質問に対し、右預金が同人のものではない旨申述していることが認められる。そして前掲乙第六四号証によつて認められる右口座の預金の推移状況からみて、右預金口座も前同様の目的をもつて設定されたものと考えられ、他方問矢義一が原告代表者の実弟であつて原告と取引がないことは前述のとおりであり、前記(A)及び(C)の認定説示を考え合わせると、右預金口座も前同様原告の簿外預金をなすものと認めるのが相当である。

(イ) そして前掲乙第六四号証、第六五号証の一、第六六ないし第六八号証、第九二号証によれば、本件昭和三九事業年度内における前記六口の普通預金の預金利息は合計一八、〇一〇円であることが認められるから、原告には同事業年度内に右金額の受取利息が発生したものというべきである。よつて右金額は前記申告欠損所得金額に加算すべきである。

(2) 仕入値引計上もれについて

被告は、原告が本件昭和三九事業年度内に明和建材から三、六〇〇円、野口商店から一、四〇〇〇円の各仕入値引を受けたところ右仕入値引合計五、〇〇〇円が計上もれであると主張する。この点について、証人緒方奎太は、同人が本件審査請求の段階で右明和建材及び野口商店の反面調査をしたところ、少額の仕入値引の事実が判明した旨証言しているが、いかなる資料に基づきいかなる額の仕入値引があつたと認定したかの点については詳らかにしていないから、右証言だけで被告の主張事実を認めることは困難であり、他にこの点を認めるに足りる的確な証拠はない。もつとも、前掲乙第六一号証の三、成立に争いのない乙第六二号証の四には、「明和建材三、六〇〇円、野口一、四〇〇円」との記載もみえるが、これは、原告が本件昭和三九事業年度より後の昭和四〇、四一事業年度の法人税確定申告に際し、申告書に添付した買掛金明細表に仕入先に対する右金額の買掛金が存在するものとして記載したものであることが明らかであり、右金額が仕入値引額であることはどこにも窮われないから、右記載を促えて被告主張事実の背認資料とすることはできない。よつて、被告の右主張は採用しない。

3、事業税認定損について

昭和三八事業年度の更正処分が適法であることは前述のとおりであるから、同処分に伴ない計算される同事業年度の未払事業税二、五五七、二〇〇円は、本件昭和三九事業年度の損金となる。よつて、右金額を前記申告欠損所得金額より減算すべきである。

4、してみれば、原告の本件昭和三九事業年度の所得金額が六、三八九、二〇五円となることは明らかであるから、同事業年度の更正処分(但し、前記裁決により一部取消されたもの)は、所得金額六、三八九、二〇五円の範囲内においては適法というべきであるが、これを超える部分については違法であり、取消しを免がれない。

(五)  昭和四〇事業年度の再更正処分について

1、仕入金額否認について

原告の本件昭和四〇事業年度の確定申告のうち、松丸及び吉田商店よりの仕入金額合計三、七七八、九〇〇円の損金処理が否認されるべきことは、前記(一)の10及び12に述べたとおりである。したがつて、右金額は原告が自認しかつ更正処分で認定された同事業年度の所得金額(更正処分金額)四、七七八、二六五円に加算すべきである。

2、雑収入計上もれについて

前記六口の普通預金が原告の簿外預金であることは前述したとおりであるところ、前掲乙第六四号証、第六五号証の一、第六六ないし第六八号証、第九二号証によれば、本件昭和四〇事業年度内における右預金の預金利息は合計二一、九三六円であることが認められるから、原告には同事業年度内に右金額の受取利息が発生したものというべきである。よつて、右金額は前記更正処分金額に加算すべきである。

3、事業税認定損について

昭和三九事業年度の更正処分が一部取消されるべきものであることは前述のとおりであるから、本件昭和四〇事業年度における未払事業税認定損の金額は、右一部取消しに伴ない地方税法の規定に基づき計算しなおした右事業年度にかかる事業税の額ということになる。

4、してみれば、原告の本件昭和四〇事業年度の所得金額が八、五七九、一〇一円から右3の金額を差引いた金額となることは明らかであるから、右差引金額の範囲内においてなされた同事業年度の再更正処分(但し、前記裁決により一部取消されたもの)は、適法というべきである。

(六)  昭和四一事業年度の更正処分について

1、仕入金額否認について

原告の本件昭和四一事業年度の確定申告のうち、中村建材店、松丸及び吉田商店よりの仕入金額合計一、〇九六、四二五円の損金処理が否認されるべきことは前記(一)の6、10及び12に述べたとおりである。したがつて、右金額は同事業年度の申告所得金額一一、五九二、四〇八円に加算すべきである。

2、売上金計上もれについて

本件昭和四一事業年度内における関工石材工業に対する売上金四、一一一、八一〇円が計上もれであることは当事者間に争いがないから、右金額は前記申告所得金額に加算すべきである。

3、雑収入計上もれについて

前記六口の普通預金が原告の簿外預金であることは前述したとおりであるところ、前掲乙第六四号証、第六五号証の一、第六六ないし第六八号証、第九二号証によれば、本件昭和四一事業年度内における右預金の預金利息は合計一五、八九四円であることが認められるから、原告には発生したものというべきである。よつて、右金額は前記申告所得金額に加算すべきである。

4、事業税認定損について

昭和四〇事業年度の更正処分が適法であることは前述のとおりであるから、同処分に伴ない計算される同事業年度の未払事業税三八〇、一六〇円は、本件昭和四一事業年度の損金となる。

よつて、右金額を前記申告所得金額から減算すべきである。

5 してみれば、原告の本件昭和四一事業年度の所得金額が一六、四三六、三七七円から右4の金額を差引いた金額となることは明らかであるから、同事業年度の更正処分(但し、前記裁決により一部取消されたもの)は、「適法というべきである。」

三  本件各賦課決定処分の適否

原告が本件各事業年度の確定申告にあたり、架空仕入を計上したことは前述のとおりであるから、原告は所得の一部を仮装し、その仮装したところに基づき申告をしたというべきである。したがつて、本件昭和三七、三八両事業年度の各重加算税賦課決定処分は適法である。また本件昭和三九ないし四一事業年度の更正処分については、前記のとおりその一部が取消されるべきであるから、これに付随してなされた本件昭和三九、四〇両事業年度の重加算税賦課決定処分ならびに本件昭和四一事業年度の重加算税、過少申告加算税各賦課決定処分は、いずれも右に対応する部分につき取消しを免がれないが、その余の部分については適法というべきである。

第二本件納税告知処分の取消請求について

請求原因(二)の事実は当事者間に争いがない。しかしながら、他方原告が本件納税告知処分に対して審査請求をしなかつたこともまた当事者間に争いがないから、右審査請求の前置を経ないことについての正当な理由につきなんらの主張立証もない本件においては、本件納税告知処分の取消しを求める訴えは、国税通則法(昭和四五年法律第八号による改正前)八七条一項本文に違反し不適法であるから、その余の点を判断するまでもなく却下を免がれない。

第三むすび

以上のとおり判断されるから、本件昭和三九事業年度の更正処分(但し、裁決により一部取消されたもの)及び加算税賦課決定処分のうち所得金額六、三八九、二〇五円を超える部分を取消し、本件納税告知処分の取消しを求める部分の訴えを却下し、その余の原告の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 上田豊三 裁判官 篠原勝美)

別表(一)

(1) 昭和三七年八月一一日から昭和三八年七月三一日までの事業年度

(昭和三七事業年度)

〈省略〉

(2) 昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度

(昭和三八事業年度)

〈省略〉

(3) 昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度

(昭和三九事業年度)

〈省略〉

(4) 昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度

(昭和四〇事業年度)

〈省略〉

(5) 昭和四一年八月一日から昭和四二年七月三一日までの事業年度

(昭和四一事業年度)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

別表(三)

〈省略〉

別紙(四)

〈省略〉

(注) 小切手番号は、「入金日」記載の日に上記該当預金口座に入金された別表(三)記載の小切手番号を示す。

別紙 原告の架空仕入額、支払額および期末買掛金残高表

〈省略〉

(注) 「福丸」、「中村建材店」の残高欄のかっこ内の数字は、原告の買掛金内訳表に記載されているものであるが、計算の誤りが認められるのでそれぞれ下段に示した数字に訂正した。

参考

変更判決

東京都北区堀船三丁目六番一二号

原告 荒川石材株式会社

右代表者代表取締役 問矢正一

右輔在人 弓削多義郎

東京都北区王子三丁目二二番一五号

被告 王子税務署長

喜井晨男

右指定代理人 宮北登

同 丸森三郎

同 在伯秀之

同 須田光信

右当事者間の法人税等取消請求事件について、当裁判所は、昭和四九年二月二八日言渡した判決に対し、次のとおり変更する。

主文

本件について当裁判所が昭和四九年二月二八日言渡した判決を次のとおり変更する。

一、判決主文のうち、

1. 第二項及び第三項を削除する。

2. 第四項を第二項に、第五項を第三項に、第六項を第四項にそれぞれ繰りあげる。

二、判決理由のうち、

1. 第一の二(五)4の三行目(判決原本八五枚目裏三行目)の「明らかであるから、」の次に「右差引金額の範囲内においてなされた」を挿入し、同五行目(同五行目)の「右差引金額の」から同七行目(同七行目)末尾までを「適法というべきである。」と改める。

2. 第一の二(六)4の一行目(判決原本八六枚目裏九行目)の「一部取消されるべき」から同六行目(同八七枚目表三行目)末尾までを「適法であることは前述のとおりであるから、同処分に伴ない計算される同事実業年度の未払事業税三八〇、一六〇円は、本件昭和四一事業年度の預金となる。よって、右金額を前記申告所得金額から減算すべきである。」と改める。

3. 第一の二(六)5の二行目(判決原本八七枚目表五行目)の「一六、八一六、五三七円から右4の金額を差引いた金額」を「一六、四三六、三七七円」と同五行目(同八行目)の「右差引金額の」から同七行目(同一〇行目)末尾までを「適法というべきである。」とそれぞれ改める。

4. 第三の四行目(判決原本八八枚目裏四行目)の「本件昭和四〇事業年度」から同一五行目(同八九枚目表四行目)の「超える部分」まで、及び同行の「いずれも」をそれぞれ削除する。

理由

原告の本件昭和四〇事業年度の所得金額は、判決理由第一の二(五)に説示したとおり、八、五七九、一〇一円から同事業年度における未払事業税認定損を差引いた金額であるところ、右差引金額は、地方税法の適用上、同事業年度の再更正処分(但し、裁決により一部取消されたもの)で認定された所得金額を上まわることが明らかであるから、右再更正処分は適法というべきであり、また、この適法な処分を前提として計算された被告主張の本件昭和四一事業年度における未払事業税認定損も正当であるから、右金額を減算項目とする同事業年度の更正処分(但し、裁決により一部取消されたもの)もまた適法であることに帰する。

よって、当裁判所は、民事訴訟法一九三条の二第一項に従い、主文のとおり判決する。

東京地方裁判民事第三部

裁判長裁判官 高津環

裁判官 上田豊三

裁判官 篠原勝美

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